かーたんゆあとシャンテは、ラウラリエの丘に到着した。
ラウラリエの丘にはラウラの花がたくさん咲いていた。
かーたんゆあさん見て。こんなにきれいな花園、はじめてよ。 この花がエテーネ王国領だけに咲くラウラの花なのね。とってもいい香り。
たしかにラウラのみつを飲めば上手に歌えるようになるかも。昔の私ったらいい場所を知ってたのね。
シャンテが花を集めようとした時、突然魔物が現れた。
出たわね、フローラルダンディ!日記にはこの花園をナワバリにしている魔物が現れるって書いてあったわ。
心配しないで。日記の私によれば、子守唄を歌うとすやすや眠って大人しくなるんですって。
シャンテが子守唄を歌うが、ものすごくオンチだ。 それを聞いたフローラルダンディは襲いかかってきたが、かーたんゆあが返り討ちにした。
かーたんゆあとシャンテは、手分けしてラウラのみつをビンに集めた。 ラウラのみつを一気に飲むシャンテ。
しかし、みつを飲んだ後も歌声は全く変わらない。
うう、やっぱりラウラのみつを飲んだだけじゃ上手く歌えないみたい。 せっかくかーたんゆあさんにも協力してもらったのに、私って。
でも負けない。姉さんやかーたんゆあさんが応援してくれてるんだもの。絶対くじけないわ。
森の奥が気になるシャンテ。
あっちからも花の香がするわね。森の奥に別の花園があるのかしら。 行ってみましょう、かーたんゆあさん。
もしかしたらもっと効果のあるラウラのみつが見つかるかもしれないわ。
森の奥に進むと、そこにはお墓があった。
見て、かーたんゆあさん。あそこに何かあるみたい。
こんなところに、誰かのお墓が。 真新しい墓石・・ぴかぴかしてるわね。最近亡くなった人なのかしら。
墓石に書いてある文字を読むシャンテ。
「誰よりも歌を愛し、歌に愛されたエテーネの歌姫、シャンテ、ここに眠る。」
衝撃を受け、後ずさりするシャンテ。
シャンテ??うそよ、こんなの何かの間違いだわ。同じ名前の他の誰か、そうでしょう?
でも、エテーネの歌姫って。このお墓、なんなの。 私、姉さんに聞いてみるわ。姉さんなら何か知ってるはずよ。 記憶がない私より、ずっとたく沢山のことを。
ゼフの店に戻るシャンテとかーたんゆあ。 リンカとゼフが何やら話し込んでいる。 シャンテの姿に気づき、急に怒り出すリンカ。
シャンテ!お前黙って部屋から抜け出して、今までどこに行ってたんだよ。 あれほど家にいろって言ったのに、姉さんの言うことが聞けないのか?お前ってやつは。
シャンテを抱きしめるリンカ。
よかった、無事で。ホントによかった。
ゼフが状況を説明する。
あなたたちと入れ違いでした。先程、ベルマたち・・指針監督官が突然押しかけて来たんです。
彼女は魔法生物を強制処分すると言って問答無用でみんなを連れ去りました。
リンカも心配そうだ。
コポやチュラリス、ジョニールもだ。そしたらお前までいなくなってて、あたしがどんなに心配したことか。
シャンテが慌てて外へ飛び出そうとする。
こんなのひどい、ひどすぎるわ。すぐにみんなを連れ戻さなくちゃ!
リンカがシャンテを引き止める。
行くなシャンテ!あいつらはあたしが必ず助ける。今度こそお前は大人しくしてろ!
シャンテは言うことを聞かない。
いや、大人しくなんて出来ない!私だって出来ることがあるはずだわ。
なおも引き止めるリンカ。
ダメだ!お前が行ったら・・ベルマに殺されてしまうんだよ!
時が止まってしまったかのように場が凍りつく。
姉さん、私、自分のお墓を見つけたの。ラウラリエの丘で。花園の奥、海の側で。 自分が書いた日記を見つけたから。
歌が上手になりたくて、かーたんゆあさんとラウラのみつを探しに行った。
あのお墓、なんなの?私が殺されるってどういうこと?姉さんは何か知っているんでしょう?
言葉を濁すリンカ。
その時、テレンスという町の人が店にやって来た。
「待たせたな、ゼフさん。ベルマ達の行き先がわかったぞ。」
「連中は魔法生物たちをでかいオリに入れた後、南門を出てエテーネ王国領の南東へ向かった。あっちには残響の海蝕洞があるはずだ。」
なるほど、あそこでは王立アルケミアの失敗作を破棄しているという噂もある。おそらくはそこで・・・
ゼフの話をそこまで聞くと、シャンテはリンカを押しのけて店を飛び出していった。 呆然とするリンカ。
とにかく今はシャンテを追いかけたい。冒険者のお前だけが頼りなんだ。頼む、一緒に来てくれ。
リンカとかーたんゆあは残響の海蝕洞に向かった。 残響の海蝕洞の奥に進むと、魔法生物たちがオリに入れられ、ちょうど処分されるところだった。
怯える魔法生物たち。 ベルマがため息をつく。
よくしゃべる虫けらどもだ。1匹ずつ引きずり出してバラバラに解体してやろうか。
ベルマが合図をすると、赤い体の異形獣が現れた。
我がエテーネ王国の基盤は時の指針書にある。エテーネの繁栄は国民が指針書を遵守することでしか得られない。
時の指針書こそがこの世の正義だ。時の指針書こそが福音をもたらすのだ!
シャンテがやって来た。
そんなことないわ!
おやおや、ゼフの店の歌姫か。
シャンテがベルマに言う。
時の指針書がないと幸せになれないなんてウソよ!私は指針書を持ってないけど、姉さんやみんなと幸せに暮らしていたもの。
ベルマが訝しむ。
時の指針書を持っていないだと?もしやお前は・・・
指針監督官たちがシャンテを取り押さえる。 異形獣に合図を送り、シャンテから精神エネルギーを吸収しようとするが出来なかった。
精神エネルギーが吸収出来ないだと? ははは、なるほどな。時の指針書を持っていないのも当たり前だ。
お前はエテーネ王国の人間ではない。 ただの魔法生物なのだから。 信じられぬというのなら、動かぬ証拠を突きつけてやろう。
ベルマがシャンテの首元をつかむ。 シャンテの首元には大きなレースのチョーカーが付いている。
やめて、触らないで!そこには大きな傷跡があるから絶対に見ては駄目だって姉さんが!
自分の目で確かめたことがあるのか?ないだろう?そういう風にしつけられていたのだよ。お前のご主人様にな。
そう言うとベルマはチョーカーを剥ぎ取った。
シャンテの首元には、魔法生物が持つ赤い宝石が埋め込まれていた。 首元を触り、ショックを受け呆然とするシャンテ。
え???
指針監督官たちはシャンテを魔法生物たちが入っているオリの中に投げ込んだ。
私が魔法生物? 私が行けばベルマに殺される。それは魔法生物だから。昔の記憶がないのもそうだったのね。 姉さんはすべて知っていた。知ってて私に黙ってたんだわ。
涙を流すシャンテ。 リンカとかーたんゆあが駆けつける。 ベルマは笑っている。
わからないな、そこまで執着する理由が。錬金術師にとって、魔法生物とは便利に使役する道具に過ぎないはずだが?
リンカが反論する。
道具じゃない。あたしの大切な家族だ!
なるほどな。家族だからこそ形すら人間に近づけてみたというわけだな?
オリに入ったシャンテのを見るリンカ。 首元に埋め込まれている赤い宝石が剥き出しになっていることに気づく。 ベルマが追い打ちをかける。
そんなものは錬金術師のエゴに過ぎない。こいつは家族なんかではなく、ただの悪趣味な奴隷人形ではないか。
リンカは力強く宣言する。
その子は、シャンテは、あたしの大切な妹だ!!
ベルマが異形獣を操り、リンカを襲おうとする。
それを見たシャンテが勇気を振り絞る。
姉さんを助けなきゃ。ラウラリエの花園でやったみたいに、私の歌で引き付ければ!
シャンテが力強く歌うと、異形獣が苦しみだし、混乱した。
異形獣が指針監督官たちを吹っ飛ばし、シャンテたちが入っていたオリの扉も吹っ飛ばした。
オリから脱出するシャンテたち。 そこにベルマが立ちふさがる。
なるほど、時の指針書に書かれていた危険な魔法生物とは貴様のことか。ようやく出会えたぞ。消えてもらう!
ベルマが剣を振りかざそうとした時、異形獣に吹っ飛ばされ、気を失った。
異形獣がかーたんゆあにも襲い掛かってきたので、返り討ちにする
喜ぶリンカとシャンテ。 ジョニールも喜んでいる。
シャンテの歌が化け物をコントロール不能にしたんです。よ!さすがはエテーネ歌姫!
浮かない表情のシャンテ。
でも、私、歌姫なんかじゃない。
ベルマが意識を取り戻した。
指針監督官はエテーネ軍の特務機関だ。
我々に刃向かうということは、すなわち国家への反逆である。
エテーネ王国の名に泥を塗った罪は重い!お前たちは一人残らず牢獄行きだ。
全員まとめて処刑してやる。 貴様もだ!こざかしい冒険者め。反逆者として処罰を受けるがいい!
どこからか声が聞こえる。
「さて、処罰を受けるのはどちらだろうな。」
ベルマが声がする方を見ると、そこにはエテーネ王国軍とその指揮官クオードがいた。 王国軍兵士に捕らえられるベルマたち。 リンカが尋ねる。
あなたは?
エテーネ王国軍、軍団長クオード。
リンカが驚く。
なに?軍団長だって?それならあいつらの仲間じゃないか。
クオードが首を横に振る。
軍団長の権限において、現時点をもって指針監督官ベルマとその部下たちの身柄を拘束する。
一介の軍人でありながら、おのが職分を越え国民を脅迫した罪、その上、得体の知れない怪物を使役して国民に危害を加えた罪。 軍法にのっとり、この者を追って処罰する。それ相応の刑が待つと心得るがいい。
ベルマが連行される。
そんなバカな。指針書に従った私が何故罰せられるのだ?こんなデタラメは指針書のどこにも書かれていなかった。
くそ、何もかも貴様のせいだ。指針書通りに事が運ばなかったのは、すべて薄汚いよそ者が介入したせいだ!
クオードが諭す。
哀れだな、指針監督官ベルマ。優先すべきは指針書に従うことより、民の幸せを守ることだとなぜわからん。
ベルマたちは連行されていった。 頭を下げるクオード。
俺の管理不行き届きであの者たちが迷惑をかけてしまったな。すまない。
奴らの横暴にはずっと頭を悩ませていた。処罰するタイミングを計っていたのだが、まさかこれほどの暴挙に出るとは。
しかも王国を騒がせている怪物を操るようなマネさえしてみせるとは、一体どういうことなんだ?
シャンテといったか。お前の歌声には異形獣を惑わせる特殊なチカラがあるようだ。その能力は軍にとっても非常に重要だ。
俺の責任において、お前とお前の家族を保護し、身の安全を保障すると約束しよう。安心するがいい。
喜ぶシャンテたち。
ありがとうございます!
クオードがかーたんゆあに気づく。
かーたんゆあだと?報告書を届けに来たかーたんゆあとは、あの時のお前のことだったのか。ありがちな名前で気づかなかったぞ。
お前にはいろいろと聞きたいことがある。落ち着いたら軍司令部まで来い。正門の通行許可は出しておく。
クオードは引き上げていった。 かーたんゆあたちもゼフの店に戻った。
みんながカウンターの前に集まる。 シャンテが日記を持って話し始めた。
この日記は記憶をなくす前に自分で書いたものだと信じていたわ。でもそうじゃないのよね。
私は魔法生物だからもともと記憶すべき過去そのものがなかった。
日記を書いたシャンテは誰なの?私はどうしてここにいるの?
ゼフが言う。
私が話しましょう。姉妹を引き取った保護者である私には、きちんと説明する義務があります。
これから話すのはあなたではない、リンカの本物の妹だった、人間のシャンテのことです。
両親と死に別れた幼い姉妹を引き取り、私は王都の片隅にこの店を開きました。
実の両親が恋しかったでしょうに、二人は寂しそうな素振りも見せず、強く真っ直ぐに育ってくれました。
リンカは父のような錬金術師を目指して、日夜修行に励み、魔法生物の研究をしました。
一方、妹のシャンテは天性の才を活かし、歌手としてその美しい歌声で王都の人々の心を癒やしていました。
王都の歌姫のウワサは隣国まで届き、リンジャハルの大劇場から招かれたシャンテは、初めて国外公演に臨みました。
シャンテがリンジャハルへと旅立った朝、あの時の嬉しそうな姉妹の姿を私は今でも忘れられません。
悲劇はその後に起きたのです。のちにリンジャハルの大災害と呼ばれた忌まわしい出来事。
「突然現れた魔物の群れが都市を破壊し、人々をむごたらしく皆殺しにしました。そう、劇場で歌っていたシャンテも例外なく巻き込まれ、命を失ったのです。
妹を失ったリンカの絶望は計り知れないものでした。 悲しみに泣き暮らし、世をはかなみ、ついには命さえ絶とうとしました。
ですがある日を境に、彼女は変わりました。自分の部屋にこもりがちになり、とある錬金術の研究を始めたのです。
リンカが言う。
日記だ。あの子の遺体をラウラリエの丘に葬ってしばらくしたある日、あの子の部屋に入ったら日記を見つけたんだ。
日記の最後のページにはあたしへのお礼が書かれていた。
#歌手として自信がなかった私を励まして、勇気づけてくれたのは、姉さん、いつだってあなただった。
#たとえ命尽き果てるその日が来ても、私は姉さんのために歌い続けるわ。ずっと、ずっとよ。
あたしももう一度あの子に歌ってほしい。心から強く願った。
そして、決めた。 魔法生物を錬金しよう。シャンテそっくりの人型魔法生物を。
死んだ親父は魔法生物研究の第一人者だった。あたしは親父から研究途中だった人形魔法生物の秘術を譲り受けていたんだ。
親父さえ成し遂げられなかった人型魔法生物の練金。成功確率は低いけど、やるだけの価値はあると思ったのさ。
そんなあたしの望みを見透かしたように、時の指針書には魔法生物を作ってはならないと書かれていた。 それでもあたしはやった。シャンテにもう一度、どうしても会いたくて、思いを込めて、人型魔法生物を錬金した。 そしたら奇跡が起きたんだ。
生まれたんだよ、見た目もそっくりで歌が大好きなシャンテが。 ああ、あたしの思いが通じたんだ、妹が蘇ってあたしのもとに帰ってきてくれたんだと本気で思った。
その後はお前も知っての通りさ。記憶がないのは怪我の後遺症だって嘘ついて、昔のシャンテの事を教え込んだ。
性格や口調、食べ物の好み、好きだった歌のこと、人間関係まで。お前はすべてを素直に信じてくれた。
だけどひとつだけ、本物のシャンテになりきれないところがあったんだよ。
リンカが笑う。
お前は歌が下手だった。
それでもお前はあたしのために歌が上手だった元の自分に戻ろうとして、必死にひたむきに努力し続けてくれた。 戻るべき自分なんてはじめからないのに。
お前はこれっぽっちも疑わずにあたしを心から信じてくれたんだ。 何度も真実を打ち明けようと思った。でも、どうしてもできなかったんだよ。 お前に真実を告げたら、この暮らしが全部壊れちゃうんじゃないかと思って。怖かった。本当に怖かったんだ。
もう二度と、妹を失いたくないから。 ごめんな、シャンテ。今まで本当に、ごめん。
泣いているリンカの手を優しく握るシャンテ。
ええ、私辛かった。なんでも言い合える姉妹だと思ってたのに、隠し事されてたなんて、ショックだったわ。
だからこそ、これからはお互いになんでも言い合える、そんな姉妹になりましょう。 私は確かに本物のシャンテじゃなくて、姉さんに作られた魔法生物かもしれない。 でも私にとっての姉さんは、他の誰でもない、あなただけよ。
私はまぎれもない私自身の意思で、あなたのために歌いたいと思ってる。真実を知った今でも、心からそう思ってるわ。 姉さんのために歌い続けたい。ずっと、ずっとよ。
これまでも、これからも、私たちは姉妹よ。私はあなたの側にいる。姉さんのために歌う、歌姫になるわ。 それとも、歌が下手な妹じゃ駄目?
ニッコにと微笑むシャンテと泣き崩れるリンカ。 二人はしっかりと抱きしめあった。 落ち着きを取り戻したシャンテがかーたんゆあに言う。
かーたんゆあさん、あなたと出会わなければ一体どうなっていたかしら。
ベルマからみんなを救ってくれて、こうして姉さんとも分かり合えたのはすべてあなたのおかげよ。
リンカも落ち着きを取り戻したようだ。
もっとゆっくりしていってほしいけど、あの軍団長から呼び出されているんだよな?軍司令部まで来いって言ってたっけ。
かーたんゆあは軍司令部のクオードの所へ向かった。
このお話の続きはここから見るッキュ!
エピソード26-5 5000年の旅路 遙かなる故郷へ Ver.4.0へ
こちらの文章は
ドラゴンクエストX(DQ10)ネタバレストーリーまとめ 様より
お借りさせていただきました。