かーたんは軍司令部のクオードの所へ到着した。
やっと来たか、かーたんゆあ。待ちくたびれたぞ。 それにしても貴様ときたら、またもや思いがけない場所に現れて、まるでボウフラのような奴だな。
初めて貴様に会ったときも、どうやって使用人たちの目をくぐり抜け、我が屋敷に潜り込んだのかと考えを巡らせたものだ。
いいか?俺はクオード。現エテーネ国王であるドミネウスの息子であり、王国軍を指揮する軍団長でもある。
貴様が屋敷で狼藉を働いたすぐ後に、第一王子であった父が王位を継いでな。それで屋敷を引き払い王宮へ越したのだ。
おかげで家の者が屋敷の墜落に巻き込まれなかったのは幸いだった。 そう、貴様を呼んだのはその件だ。
貴様は辺境の様子を見てきたのだろう?現場の状況についてもっと詳しく話を聞かせてくれ。
かーたんゆあはバントリユ地方で体験したことをクオードに話した。
屋敷の惨状はそれほどであったか。 それに報告書にもあった異形獣。
指針監督官がそれと同種の生物を操っていたことも見過ごせないな。
よしわかった。この件についてはさらに調査を進めよう。もう下がってよいぞ。
かーたんゆあはメレアーデから預かった記憶の赤結晶のことをクオードに話した。
なんだと?貴様が屋敷を出ていく時、俺に渡すようにとメレアーデ姉さんから記憶の赤結晶を預かっただって?
おかしいな。姉さんはそんなこと一言も言っていなかったのに。 とにかく早くそれをよこせ!
かーたんゆあはクオードに記憶の赤結晶を奪い取られてしまった。
もう用は済んだな。ご苦労であった。今度こそ下がってよいぞ。
かーたんゆあは、クオードと一緒に見るようにメレアーデから言われていることを伝える。
はあ?姉さんからは俺と一緒に記憶の赤結晶を見るように言われているだと? 仕方あるまい。だがそこで大人しくしていろよ。
クオードが記憶の赤結晶を発動させると、メレアーデの姿が投影された。
投影されたメレアーデは、ドレスではなく、旅人のような服を着ている。
クオード、かーたんゆあ、私の声が届いていますか? これからあなた達二人に大事な使命を託します。私が言うことをどうか心にとめてください。
おそらく今、王都キィンベルでは王宮へ至る道が閉ざされていることでしょう。 今からあなた達は共に行動し、協力して王宮を目指すのです。 それは苦難をともなう道となるでしょうが、あなた達二人なら必ずや成し遂げることが出来ると信じています。
クオード、あなたが胸の内に秘めた疑いは正しい。自分を信じ、突き進みなさい。 それからかーたんゆあ。王宮で私と再会できたらどうか願いを聞いてほしい。
頼みましたよ、二人とも。願わくばあなた達の選ぶ道が正しき未来へと至らんことを。
メレアーデの姿が消えた。
どういうことだ?まさか姉さんは王宮への道が閉ざされているということを予見でもしていたのか?
いや、他でもない姉さんが言うんだ。信じるしかあるまい。 だが今王宮へ向かえとは簡単に言ってくれる。
かーたんゆあ、今の話を聞いていただろう?至急軍が管理する転送の門まで来い。王宮へ至る道はそこにしかない。
転送の門の前で、クオードと従者が何やら揉めている。
ダメですよ、クオード様。この状況で転送の門を使うだなんて、無茶すぎます。
従者の名前はディアンジというようだ。クオードが怒る。
黙れディアンジ!これは俺が決めたことだ。異論は認めん。
ディアンジが肩を落とす。
そうおっしゃられましても。今王都からあなたがいなくなったら。
クオードがかーたんゆあの姿に気づく。
ん?ああ、かーたんゆあ。来たのか。それじゃあ早速出発しよう。
これこそが我が軍が管理する転送の門。中に入った人間を各所に点在する別の門まで転移させる事ができるんだ。 この門からはエテーネ王宮にも転移が可能。
許可ある者しか使用は認められていないが、かーたんゆあの同行は俺が許可する。 さあ、行くぞ。
ディアンジがなおも止める。
ちょっと待って下さい!あなた、どこのどなたか存じませんが、正気ですか?
現在この門は使用禁止になっているんです。この門を使った人たちがどうなっているか、あなただって知っているでしょう?
いいですか、今この門を使った人たちは全員が行方知れずとなっていて、一切消息がつかめなくなっているんです。 これは前代未聞の失踪事件じゃないかって軍部ではウワサになっているんですよ。
とにかく、こんな状況で転送の門を使おうだなんて正気の沙汰とは思えません。
クオードが言う。
そんなことわかっている、ディアンジ。だがこうしていても状況は何一つ変わらないじゃないか。
俺が調査を命じてからはや数日、これといった成果は得られず、このままではいたずらに時を過ごすばかり。 転移自体は作用しているようだし、門を使った人間は転移先で何かしらの事件に巻き込まれていることも考えられる。
ここで手をこまねいているだけでは何もわからぬ。だから俺は自身の目で原因を確かめるためにも転移を試みるぞ。
それに、俺には何としてでもエテーネ王宮へと向かわねばならん理由があるのだ!
その時、ディアンジが持つ小さなハープのようなものが音を奏でた。
うわわ、ザグルフです!これはきっとザグルフからの連絡ですよ。
どういうことだ?ザグルフには俺から指示があるまで自宅にて待機と命じていたはずだが?
ディアンジが困った顔をする。
それがあいつ、時の指針書も無視して、クオード様に内緒でこっそり転送の門を使おうとしたんです。 止めたのですがあいつときたら強情で。それでなんとか連絡はつくようにと伝声の琴を持たせて送り出したんですよ。
その時突然、伝声の琴が光りだし、ザグルフの声が聞こえる。
ディアンジ・・聞こえているか?
・・ 星華の・・・星華のライトが・・・あれば・・
クオード様・・・星華のライト・・・
アイツの・・・正体を暴き・・ここから脱出出来る・・
ここで通信が途切れた。 ディアンジが言う。
ですが星華のライトなんかが必要だなんて、一体どういうことなんでしょう。さっぱり意味が分かりませよ。
ふん、まあいい。詳しい状況はわからないが、とにかくザグルフは生きていたんだからな。
それにヤツが発した言葉。星華のライトがあればここから脱出出来る。そう言ったように聞こえた。
俺はザグルフのもとへ星華のライトを届けるために転送の門を使う。もう文句はないな、ディアンジ。
あのライトは今どうなっている?例によって壊れてしまったのか?
ディアンジが答える。
はい、そうなんですよ。持っていくのであればまた練金から始めなければなりません。
よし!ではすぐにライトの作成に取り掛かってくれ。
完成次第出発とする。 俺は一旦軍団長室に戻っているからな。出来るだけ早く頼むぞ。
ディアンジの家で話を聞くかーたんゆあ。
ディアンジはかーたんゆあにお茶を出してくれるが、途中でつまずいてこぼしてしまう。
私はディアンジといいます。クオード様の個人的な臣下でして、これでも一応錬金術師をやっております。
あなたはかーたんゆあさんですね。覚えましたよ。
先程連絡のあったザグルフは、私と同じくクオード様の臣下でして。いえ、錬金術師ではないのですが。
いわゆる密偵というんでしょうか。探索や情報収集といった仕事に才能を発揮するタイプでして。
そんな役どころのせいか、あいつは自分のチカラが役立つかもと危険を承知の上、独断で転送の門を使ってしまったのです。
これまで行方知れずとなった者は生死すら不明でしたから、ザグルフが生きていることには心底ほっとしたのですが。
ザグルフが口にした星華のライト。あれ、過去に私が研究し錬金したものの、まだ実用化できていない試作品なんですよ。
星華のライトは特殊な練金素材を使った照明器具なんです。まるで満点の星空のように周囲を照らす、はずだったのですが。
実際に錬金したライトはやたらに眩しすぎたり壊れやすかったりと、明るさと耐久性がどうにも不安定でしてね。
ずっと研究を続けてはいるのですが、未だに実用化の目途はたっていないのですよ。
ザグルフが何故今になってあんな試作品を欲しがるのか訳が分かりませんが、必要だと言うなら錬金するしかありません。
そこでかーたんゆあさんにお願いですよ。王都の北東門を越えた先、ティプローネ高地に星落ちる谷という場所があるんです。そこへライトの素材を取りに行きたいのですが、この谷には凶悪な魔物がおりましてね。ぜひあなたにご同行お願いしたいのです。
私、戦いの心得はないので戦闘能力は皆無。それに見ての通りのどんくささ。道中一人では心もとないのですよ。
どういった事情かは知りませんが、あなたもクオード様と一緒に転送の門を使い王宮を目指しているんでしょう?
あなたにも悪い話ではないはずですよ。どうですか、かーたんゆあさん。私に同行して頂けませんか?
かーたんゆあはディアンジと共に星落ちる谷へ向かう。
星落ちる谷にいた凶悪な魔物を倒し、練金素材である星の彩晶石を手に入れた。
家に戻り、星華のライトの練金を始めるディアンジ。
私はさして才能もない無力な錬金術師です。こんな私があの方のために出来ることがあるならどんなことでもして差し上げたい。それがあの方を危険な場所に送り出すことであっても。
あの人はなんというか、行くと決めたらとことん行ってしまう人なんですよ。自分の信じたものに真っ直ぐなんです。
こっちの心配なんてこれっぽっちも気づいてないと思いますがね。ははは。
私これでも以前は王立アルケミアで働く錬金術師だったのです。クオード様とはそこで初めて会いました。
王立アルケミアでは毎年、国王や有力者の前で研究の性格の成果を発表する機会があるんですよ。当時の私も参加することになったのですが・・・
当時からいつも失敗ばかりだった私は、案の定発表会でも失敗してしまいましてね。有力者の怒りを買ったのですよ。
その後もアルケミアに戻って一人練金を続けても、ライトの生成が思うようにいくことはありませんでした。
そんな私でしたからね、重要な席での失敗によりアルケミアを追われるのに時間はかかりませんでした。
そしてついに、アルケミアからクビを言い渡され途方に暮れていたその時、私の目の前にクオード様が現れたのです。
行くあてがないなら俺のもとに来い、そして必ずや貴様の信じる練金を成功させろと言って、クオード様はその場で私を自身の個人的な臣下として迎え入れてくださったのです。
その時は嬉しさの反面、なんて物好きな人と思ったものですが、後からこんな話を聞いたのです。
実はクオード様自身、王族という身であらせられながら時渡りのチカラが弱く、幼少期に苦労されたんだとか。
今こそ武功を重ね、軍団長という地位にまでのぼり詰めましたが、子供の頃に受けたお父上からの風当たりは強かったようです。
クオード様は誰よりも努力し、自らの手で成功への道を切り開いたお方。だからこそ最初から出来ないと決めつけることがお嫌いだったのでしょう。
クオード様はこんなしがない錬金術師の私にまで可能性を見出し、信じてくださったのです。
星華のライトの改良は続けておりますよ。未だ壊れやすくて完成品には程遠いのですがね。」
転送の門へ向かうと、ディアンジが完成した星華のライトを持って、クオードと一緒にやって来た。
うむ、一応は完成したようだな。ご苦労であった。
ディアンジが伝声の琴をクオードに差し出す。
それからこれもお持ちください。ザグルフに持たせたものと同じ伝声の琴になります。 転移した先で何があるかわかりませんから。いつでも連絡してきてくださいね。
かーたんゆあとクオードは転送の門の中に入った。
すると警報が鳴り響き、急激に視界が暗くなっていく。そしてかーたんゆあは気を失ってしまった。
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エピソード26-6 5000年の旅路 遙かなる故郷へ Ver.4.0へ
こちらの文章は
ドラゴンクエストX(DQ10)ネタバレストーリーまとめ 様より
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