かーたんゆあが目を覚ますと、目の前にドレス姿のメレアーデがいた。
よかった、気がついたようね。あなた、屋敷の外で倒れていたのよ。 あなたは確か、クオードの幼友達で大親友のかーたんゆあさんだったわよね。心配しないで、クオードも一緒よ。ほら。
隣を見ると、クオードがベッドに座っていた。頭痛がするようで頭をおさえている。
どういうことだ?ここは墜落したはずのドミネウス邸。
メレアーデが笑う。
ふふ、何を言っているのクオードったら。うちが墜落?そんなことあるはずないじゃない。
メレアーデの姿に初めて気づくクオード。
姉さん?メレアーデ姉さんがどうしてここに?
どうしてって言われても、ここは私のお屋敷なんだし。もう、なに?さっきから。変なクオードね。
それにあなた。かーたんゆあさんに迷惑かけちゃダメよ。剣の修業に熱心なのは良いことだけど、倒れるまでかーたんゆあさんを付き合わせるなんて。
そんな無茶ばかりしていると、いくら親友だからってかーたんゆあさんに愛想つかされちゃうわよ。
笑い出すクオード。
何を言うかと思えば親友だって?俺とコイツが?それだけはエテーネ王国が3回滅んでもありえない。
またクオードったらそんなこと言って。かーたんゆあさんとは幼い頃から一緒に剣の修業をする仲じゃないの。
困惑するクオード。
俺は夢でも見ているのか?王都の転送の門を使ったら墜落した屋敷に?しかもかーたんゆあが俺の親友だって?一体何がどうしたっていうんだ。
その時、召使いが部屋の中に入ってきた。
メレアーデ様、お待たせしました。お飲み物を持ってきましたよ〜。
なんと召使いは、メイド姿のザグルフだった。
ザグルフ、貴様、ふざけているのか!貴様は偵察に出たのではなかったのか?そんな格好で何をしている!
ザグルフがくねくねしながら答える。
偵察?何のことかわからないです〜。私はクオード様が幼少の頃より仕えているメイドのザグルフちゃんで〜す。
どいつもこいつもいいかげんにしろ!これ以上茶番に付き合う気はない。俺は屋敷の様子を確認してくる。
クオードが部屋を出ていったのでかーたんゆあも後を追う。 転送の門の前にクオードがいた。
くそ、なんで開かないんだ。
俺は屋敷で目覚めたことに気づいた時、ついに俺の中のチカラが覚醒して、時間を移動したのかと思ったんだ。
だが違う。これは断じて時渡りなどではない。先程邸内の様子も見てきたが、屋敷の人間の中には王都で転送の門を使い行方知れずとなった者が何人も紛れていた。
王宮にいるはずの姉さんがいたことから考えて、それ以外の連中も王宮側から門を使い、ここに迷い込んだ者なのだろう。
つまり転送の門を使った者は、なぜか皆この屋敷の人間だと思い込んだまま、ここで時を過ごしているということ。
一体何故そのようなことが起きているのか、皆目見当もつかないが。今はこの異変を解明するしかないようだ。
見ろ、ここの転送の門は開きもしない。俺も貴様もこのままじゃ屋敷から出られないということさ。
さて、どうしたものかな。頼みの綱であるザグルフもあの様子では全くアテになりそうもないし。
そうだ、星華のライトだよ、あれをザグルフに見せれば何か思い出すかもしれない。
持ち物が全てなくなっていることに気づくクオード。
ない、俺の荷物がなくなっている。ライトも伝声の琴も全部だ。おそらくさっき気を失っている間に。
くそ、なんだかずっと後手に回ってしまっているようだな。
手分けして荷物を探すかーたんゆあとクオード。
かーたんゆあは怪しげな影が隠し部屋に行くのを見た。
怪しげな影のように、ろうそくを動かし 隠し部屋に行って見ると、クオードの荷物を発見した。 伝声の琴が光っていたので手を触れてみる。
クオード様ですね?やっとつながりましたよ。私です、ディアンジです。
クオード様が連絡をくださらないから・・そちらの様子が気になって私の方から連絡をしたのですよ。
その時、クオードがやって来た。
おお、よくこの場所を見つけたな。ここは隠し部屋になっているんだ。声が聞こえたから来てみたんだが。
ん?それは伝声の琴じゃないか。ちょっと貸してみろ。
伝声の琴をクオードに渡す。
俺は怪我もなく無事だ。こっちのことは何も心配いらない。だからもう連絡は不要だ。今後二度とこちらから連絡することはないと思う。じゃあな。
クオードは伝声の琴を壊してしまった。
さてと、もうこんな狭い所に用はないはずだろ?またあとでいつものように剣の修業もしような、かーたんゆあくん。それじゃ。
クオードは何処かへ行ってしまった。 かーたんゆあはクオードの荷物から星華のライトを取り出し、クオードの後を追った。 クオードは大広間でメレアーデとチェスを楽しんでいた。
側にメイド姿のザグルフもいる。 かーたんゆあはメレアーデに星華のライトをあてる。
メレアーデに影が出来ないことに気づくかーたんゆあたち。
笑い出すメレアーデ。
まさかそんな粗末なライトでバレてしまうとは。
メレアーデは魔物に姿を変えた。
「だけど私の正体がバレても問題はない。あなた達は全員、この場所で永遠の時をさまようだけ。」
魔物は何処かへ姿を消してしまった。
正気を取り戻すクオードとザグルフ。
ザグルフ、どうやら正気に戻ったようだな。転送の門の異変を調べるために貴様を追ってきたというわけだ。そしてまさに今、真相の尻尾をつかんだ。
先程の魔物がこの屋敷で起きている異変の元凶に間違いないだろう。とにかくヤツの足取りを追うのが先だ。
俺は廊下のほうを探してこよう。かーたんゆあはこの辺りを探してくれ。
ザグルフに話を聞くと、この部屋の中に違和感がある場所があるという。かーたんゆあはそこにある絵画を調べてみた。
屋敷には似合わない不思議な印象の絵画だった。
ずっと見ているとだんだん吸い込まれそうな気持ちになって、気がつくと本当に絵画の中に吸い込まれてしまった。
かーたんゆあの後をクオードが追ってきた。
ザグルフから貴様が絵画の中に吸い込まれてしまったと聞いたんだ。だから俺も急いで追いかけてきた。
ここは一体なんだ?どうして絵画の中にこんな世界が広がっている?
いや、そもそも屋敷そのものがあの魔物によって作り出されたもの。そういう相手だと考えるのが自然か。
それにしても、まさかザグルフが俺以外のヤツとまともに喋れるとはな。ちょっと驚いた。
危なっかしい喋り方だっただろう?それでもかーたんゆあはザグルフの意図を理解し、ここにたどり着いたというわけか。
なるほどな。ザグルフのやつは、なんというか少々人見知りでな。他者と言葉を交わすのが極端に苦手なのだ。
もとは軍の密偵部隊にいたのだが、あの性格のせいで持て余されていたのを俺が個人的な部下として引き取った。
難があるという意味ではディアンジも同じか。あいつはそそっかしくてすぐにドジをふむからな。
かーたんゆあ、貴様、あいつらが俺の臣下であることを奇妙に思ってるんじゃないのか?
ふん、いいさ。皆陰で噂しているのは知っている。しかしそんなことはどうでもいい。
一見なんの取り柄もないただのでくのぼう。だがそんなあいつらにも他の者にはない特別な才がある。
ザグルフは目端が利く。何事にも注意深くどんな違和感も逃さない。それは貴様も目の当たりにしただろう?
ディアンジは錬金術の腕こそ平凡だが、やると決めたら最後まであきらめない強き心を持っている。
あいつらは上っ面に見えるものだけで他人からダメなやつと決めつけられたが、決してそんなことはない。
そう信じてやるヤツがひとりくらいいたっていいだろう?
ふん、無駄話が過ぎたな。なぜ俺は貴様にこんな話を。
先を急ごう。さっきの魔物は必ずやこの道をたどった先にいるはずだ。とっととかたをつけるぞ、かーたんゆあ。
一番奥の部屋に逃げた魔物がいた。
「ここまで追ってくるとは思わなかったわ。ほころびを生じさせたのは、そう、かーたんゆあ。」
「私は形あって実体なきもの。光と影の織りなす境界の刹那。刹那はすべてを取り込みやがて永遠となる。」
「私はあなたとともに穏やかな時を過ごしていたいだけ。ここに残るというなら命を奪ったりしない。あなただって私と一緒にいることで安らぎを感じていたでしょう?」
クオードが否定する。
見くびるな!そんな表面だけ取り繕った見かけの安らぎに何の価値がある?
自分の道なら自分で決めるさ。今までだってそうしてきた。それはこれからも。
俺の行く道を阻むと言うのなら、全力で貴様という障害を取り除くだけだ!
かーたんゆあとクオードは協力して魔物を倒した。
魔物は消滅し、クオードが剣をおさめる。
俺はこんなところで足踏みしているわけにはいかないんだ。
やるじゃないか、かーたんゆあ。俺も剣術にはそれなりに自信があったが、貴様の強さは実践で磨かれたものだな。
メレアーデ姉さんが貴様と一緒に行動しろって言ったこと、今ならその言葉の意味がわかる気がする。
姉さんはきっとかーたんゆあの中にある強き心、幻にも惑わされぬ屈強な意志を見抜いていたのだな。
その時突然屋敷が崩壊し、まばゆい光に包まれる。
気がつくと、屋敷に囚われていた人々全員が転送の門の中に集まっていた。
「見ろ!ここは軍が管理する転送の門だ!オレたち助かったんだ!」
転送の門の外に駆け出す人々。
そうか、あの魔物を倒したことであそこから戻ってくることが出来たのか。
おそらくこれで転送の門も正常に使用出来るようになるのだろう。俺たちで成し遂げたのだな。
だがあの屋敷はなんだったのか。メレアーデ姉さんに化けていた魔物は何を目的にしていたのか。
その時、傍らに落ちていた道具に気がつくクオード。
なんだ、これは。光を映し出す道具のようだが。
これは!エテーネ王国の紋章!?
まさかこの道具のせいで転送の門が?もしそうだとすると、これは・・・。いや、憶測だけで語るのはやめよう。
ザグルフ、その道具を回収しておいてくれ。こちらで少し調べてみろ。
俺たちも戻るぞ。いつまでもこうしているわけにもいかん。
かーたんゆあ、ここを出たらひとまず軍団長室まで来てほしい。こたびの件の礼もせねばならんからな。
かーたんゆあは転送の門を出て軍団長室に向かった。
来たか、かーたんゆあ。さあ、こちらへ。
ディアンジも来ていた。
ああ、かーたんゆあさんも無事でよかったですよ。私、皆さんが帰ってきたと聞いて飛んできたんです。
いやあ、伝声の琴がつながらなくなった時はどうなることかと思いましたが、連絡のつかなくなっていた者全員を連れて戻ってきてくださるとは、いやはや、さすがは我らのクオード様ですよ。
クオードが首を振る。
いや、今回のことはとても俺一人だけのチカラでは解決出来なかった。
ディアンジ、貴様の研究の成果、星華のライトがついに役立ったのだ。まさかあんなに影を目立たせるとはな。
ザグルフは敵の欠陥とこのライトの真価に気づいていたからこそ、最初の通信でライトさえあればと連絡して来たのだな?
ザグルフがしどろもどろ答える。
は、はい。い、以前ディアンジの研究、ラ、ライトで映し出したものを見た時、影が目立つのにき、気づいて。
ディアンジが喜ぶ。
今まで研究を続けてきたものがこんな形でクオード様の役に立ったなんて、びっくり仰天。ハッピーさんですよ。
貴様の研究の粘り勝ちといったところか。ひいてはよき仲間を持ったことに感謝するんだな。
それは俺もか。
ディアンジ、出立の時は不安も多くあっただろう。俺を信じ、送り出してくれたこと、感謝する。
ザグルフ、単身で敵陣に乗り込み、的確な情報をもたらしてくれたな。勇気を持って行動してくれたこと、感謝する。
そしてかーたんゆあ。ザグルフにも負けず劣らない観察力に、幻にも飲み込まれることのない屈強な意志。何よりその真の強さが皆を救ってくれた。最後まで共に戦ってくれたこと、心から感謝するぞ。
これからもよろしく頼むぞ、ふたりとも。それからかーたんゆあもだ。
さて、転送の門だが、俺たちが帰ってきてからはもう問題なく使用できるのだな?
はい、それはもう。軍の皆さんで確認したようで、王宮までバッチリ行って帰れたようです。
よし、俺は少し王都を離れるが、ディアンジとザグルフの二人は連絡があるまでこちらで待機していてくれ。
かーたんゆあ、ようやく王宮への道が開いた。これから俺たちはメレアーデ姉さんの言葉に従ってエテーネ王宮へと向かうぞ。
準備が出来たら転送の門まで来い。俺は先に行って待っているからな。
ああ、ひとつ伝え忘れていた。転送の門で見つけた道具、幻灯機と名付けたが、ディアンジに調べるよう命じてある。覚えておいてくれ。
かーたんゆあとクオードは転送の門からエテーネ王宮へ向かった。 エテーネ王宮は浮遊島にあり、空に浮かんでいる。 エテーネ王宮の中へ入る。
俺たちが今立っている場所は王都の上空に浮かんでいる王宮の中だ。
俺はこれから父に、ドミネウス陛下に転送の門復旧の件について報告しなければならない。その際、チカラを貸してくれたお前にもぜひ同行してもらいたいんだ。
事実、まやかしのドミネウス邸から脱出できたのはお前のおかげだしな。
クオードと共に王座の間に向かう。
ドミネウス陛下、軍団長クオード、只今帰還しました。
うむ、おもてを上げよ。 転送の門が不調をきたしているのは余も承知している。お前が王座に参じたということは、門の復旧がかなったのだな?
は、その通りでございます。 私が参上いたしましたのは、転送の門の件でぜひとも陛下にご報告したいことがあるからです。 それは転送の門の不調の原因です。
王の側近が話に割って入る。
「原因ですか。私が思うに、この度の事故は門の老朽化が招いたことであるかと。」
クオードが側近を睨みつける。
不調の原因は老朽化ではなく、門の内部に仕掛けられた怪しげな魔道具のせいだったのです。
その魔道具、仮に幻灯機とでも呼びましょう。その幻灯機のチカラが転送の門を通過する者に作用し、怪しげな空間に連れ去っていたのです。
そのせいで私と、ここにいるかーたんゆあも一時怪しげな空間に囚われてしまったのですが、かーたんゆあの活躍により、どうにか難を逃れ、王都側の転送の門にしかけられた幻灯機を発見するに至ったのです。
ドミネウス王がかーたんゆあを見る。
指針書を持っておらぬようだな。ということは異国人か。 まあ、よい。して、幻灯機やらは?
配下の錬金術師に調査させています。何か分かり次第ご報告いたしましょう。
あい、わかった。軍団長クオードならびにかーたんゆあとやら、此度の件、大儀であったな。
余はこれより時見の神殿にこもる。我らエテーネの歩む道が正しき未来へと繋がらんことを。
エテーネ王国に栄光あれ。
ドミネウス王が去っていった後、クオードがかーたんゆあに説明する。
時見の神殿にこもり、全国民の持つ時の指針書の書き換えを行う。重大な国王の責務だ。
さてかーたんゆあ、もう少しだけ付き合ってもらうぞ。覚えているよな?姉さんから託された俺たち宛の記憶の赤結晶の内容を。
二人で協力して王宮を目指せだとか、王宮への道は閉ざされているだとか、まるでこれから起こることをすでに知っているかのような予言めいた内容だったよな。
しかもお前を名指しして頼みを聞いてほしいなんてことも言っていたな。
まあ、そのへんの疑問は姉さんに会いさえすれば解けるはずだ。
かーたんゆあとクオードはメレアーデの部屋に向かった。
遅いじゃないのよ、クオード。あなたが王宮に来たって知らせを聞いて私ずっと待ってたのよ。
いつもと違い、たじたじのクオード。
ごめん、ちょっと野暮用があってね。別に姉さんのことをないがしろにしたってわけじゃないよ。
姉さん、こいつの顔を覚えているかい?
かーたんゆあの顔をじっと見るメレアーデ。
え、まさか、あなたかーたんゆあなの?やっぱりかーたんゆあなのね。久しぶりじゃないの。よく来てくれたわ。
半年前、父が王位を継いでドミネウス邸からこのエテーネ王宮に越して来たの。私も王女様なんて呼ばれるようになって。
それはそうと、あなたったらあの時は勝手にいなくなって私ずいぶん探したのよ。
せめてさようならの一言くらいあってもよかったんじゃない?
でもまた会えて嬉しいわ。
そんなことよりも姉さんには聞きたいことがあったんだ。これは一体何なんだ?
メレアーデに記憶の赤結晶に込められた映像を見てもらった。
何なのかしら、コレ。全然記憶にないんだけど。
私のそっくりさんじゃないわよね?
メレアーデは全く身に覚えがない様子だ。
本当に覚えてないのかい?誰がどう見たって姉さんじゃないか。
さらに考え込むメレアーデ。
んー、こんなのを記憶した覚えは全くないのだけど、あ、でもね、今二人に頼みたいことがあるのは当たってるわ。
メレアーデが記憶の赤結晶をドレスのポケットにしまう。
しばらく転送の門が使えなかったでしょ?パドレア邸にいるマローネ叔母様が今どうしてるかって心配だったのよ。 転送の門が直ったのならこれから叔母様のお宅に伺って様子を見てこようと思うのだけれど・・・
部屋に兵士が入ってきた。
「王女陛下並びに王子殿下、ご歓談の最中失礼致します。ジャベリ参謀より王子殿下を会議室へお連れするよう申し付けられて参りました。」
兵士がクオードだけに耳打ちする。
「王立アルケミアの件です。」
わかった、すぐに行く。
姉さん、すまないがマローネ叔母様の家にはかーたんゆあと一緒に行ってくれ。急な任務で同行出来そうにないんでね。
そういうことだから頼んだぞ、しっかり姉さんをエスコートしてくれ。
クオードはかーたんゆあにそう言うと、そそくさと行ってしまった。
あの子ったら薄情ね。昔は姉さん姉さんって私のスカートをつかんで離さなかったのに。
ちょっと寂しい気もするけど、あなたと二人だけってのも気軽でいいかもね。
もちろん付き合ってくれるでしょ?なにせあなたは私のお願いを聞くためにわざわざ会いに来てくれたんだし。
マローネ叔母様が住むパドレア邸には転送の門から行けるわ。
かーたんゆあとメレアーデは、転送の門を使ってパドレア邸へ向かった。
案内するからついて来て。
あ、私ったらうっかりしてたわ。まだ叔母様のことを説明してなかったわね。
マローネ叔母様っていうのは、お父様の弟であるパドレ叔父様の奥様にあたる方よ。
早くに母を亡くした私たち姉妹の遊び相手になってくれた人で、私にとっては、そうね、歳の離れたお姉さんのような人。
まだ小さかった頃、マローネ叔母様にはよくこのお庭で遊んでもらったわ。そのときはクオードも一緒で。
たまにだけど、叔父様も遊んでくれてね。そうなるとクオードはきまって剣術の稽古を叔父様にせがんだものよ。
クオードったら、叔父様を負かしたら手加減されてたとも知らず、大喜びでね。ほんとおかしかったわ。
小さな男の子の剣の相手なんて、本来なら父親のすることでしょう?なのにお父様ったらクオードにも私にもかまってくれなかったばかりか、私たちがここへ遊びに行くのも禁じたの。
その時、屋敷の中から大きな音がして窓ガラスが割れた。
何なの!?叔母様が心配だわ。急いで様子を見に行きましょう!
屋敷の中に入ると、大きなシャンデリアが落ちていて花瓶や物が散乱していた。
女性の使用人に付き添われながら生後間もない赤子を抱いたマローネが逃げている。
メレアーデが大声で呼ぶ。
叔母様!!
メレアーデに気がついたマローネが足を止めて声をかける。
逃げなさい、メレアーデ!ここは危険です!
マローネを追って異形獣が現れた。
マローネは異形獣に襲われているようだ。
その異形獣を必死に食い止める一人の剣士がいる。
マローネ様!お早く!立ち止まらないで!自分にかまわず行って下さい!
その剣士は片手剣2刀流だ。
すてみで天下無双を放つが異形獣にはあまり効いていないようだ。
マローネが大広間から逃げていくのを確認した剣士はギガブレイクを2発連続で放ち、異形獣を吹っ飛ばす。
剣士がメレアーデに気づいた。
メレアーデ様!?お逃げ下さい!そいつが起き上がる前に!
そこへもう一匹の異形獣がやってきてマローネを追っていく。
剣士はマローネを救うため、異形獣の後を追っていった。
剣士が吹っ飛ばした異形獣も起き上がり、マローネを追っていく。
あんな化け物が2匹も。叔母様は引き返せと言ったけど、駄目だわ。助けを呼びに行ってたらとてもじゃないけど間に合わない。私たちで叔母様たちを助けるのよ!
かーたんゆあとメレアーデはマローネの後を追った。
マローネ達は地下1階に追い込まれていた。
剣士が1匹の異形獣のツノを折るが、残りの1匹が使用人を吹っ飛ばし、マローネの精神エネルギーを吸い始める。
使用人がなんとか起き上がりマローネに近づく。
マローネは苦痛で顔を歪めている。 気を失いそうになりながらも大事に抱えていた赤子を使用人に託す。
こ、この子を・・・お願い・・・
マローネの精神エネルギーを吸い終わって逃げようとする異形獣に、剣士が猛然と突撃する。 渾身の一撃を放ち、異形獣を消滅させた。 剣士がマローネに駆け寄る。
マローネ様!しっかり!
マローネの意識はない。
どうやら異形獣に精神エネルギーをすべて吸い取られてしまったようだ。
メレアーデがやっと追いついた。 マローネの様子を見て言葉を失う。
叔母様!?ま、まさか・・?
一刻も早く王宮へ戻り、叔母様を王宮医師に診せましょう。
「おぎゃあ、おぎゃあ・・・」
使用人が抱きかかえている赤子が泣いている。
「あ、ええと、ご息女様はご無事です。」
ねえ、かーたんゆあ、叔母様を私のお部屋に運ぶから手伝ってちょうだい。
剣士は異形獣のツノも一緒に持ち帰ることにした。
かーたんゆあたちはパドレア邸を後にし、マローネ夫人をエテーネ王宮にあるメレアーデの私室へ運び込んだ。
元気に泣いているマローネの娘に使用人が声をかける。
「ご安心下さい、ご息女様。お母様はお側におられますからね。」
医師がマローネの容体を確認する。
「うーむ、手持ちの気付け薬は効果がないようですな。このような状態だと、自然に目覚めるのを待つほかありませんな。とにかく今はマローネ様の回復力を信じるほかありません。」
そんな・・・パドレ様になんと言えば・・・
剣士は項垂れながら部屋を出ていった。 メレアーデが言う。
かーたんゆあ、あの人についていてあげて。先生と話した後、私もすぐに行くから。
かーたんゆあが剣士に近づこうとした時、ドミネウス王がやってきた。
お前はたしか、クオードと一緒にいた異国の者か。
ここは神聖なるエテーネ王国の中枢だ。素性の知れない異国の者にうろちょろされたくはないのだがな。
剣士がドミネウス王の前にやってくる。
ん?貴様、戻っていたのか。
お久しゅうございます、ドミネウス様。いえ、国王陛下。 王弟殿下の消息につきましては後ほどご報告させて頂きます。
まだ探しているのか。ムダなことを。あやつはもう死んだのだ。 あれほどの大災害に巻き込まれては生きていようはずがない。
剣士が胸に手をあてて反論する。
しかし、自分は生還しました!わが主、パドレ様もきっと・・・
メレアーデが騒ぎを聞きつけてやってくる。
ちょっとどうしたの。そんな大声をだして。
お父様、珍しいですわね。ここにいらっしゃるなんて。
聞いたぞ、メレアーデ。魔物に襲撃されたパドレア邸へ乗り込んで行ったそうだな。
。
ええ、そのおかげでマローネ叔母様を救い出すことが出来ました。
ドミネウス王がメレアーデを叱りつける。
この愚か者が!エテーネ王国の王女たる者がおのが高貴なる身分を忘れて危険に身を投じるなど言語道断。
正しき未来を選択し、臣民を導く。その血を決して絶やさず後世に、未来に繋いでゆくことこそ王族の勤め。
お前には王族としての自覚が足りておらぬようだな。
メレアーデが言い返す。
ハッキリおっしゃって下さい。王族の勤めだ何だと言いながら、結局は私が叔母様のお家に行ったのが気に入らないだけ、そうなのでしょう?
叔父様を嫌っているからと言って、子供にまでそれを押し付けないで!
メレアーデを平手で殴り飛ばすドミネウス王。
余の許しがあるまでこの部屋から一歩も外に出るな。よいな、メレアーデ。
剣士がドミネウス王に言う。
陛下、失礼ながら躾とはいえ、ご息女に手をあげるなど・・・
王室のことに貴様ごとき下賤の者が口出しするな!それと死んだ愚弟のこともな。これ以上の捜索は不要だ。
そう言うと、ドミネウス王は立ち去っていった。
少し風にあたりに。
剣士はそう言って何処かへ行ってしまった。
お父様ったら下賤の者だとかパドレ叔父様は死んだとか、いちいちトゲのある言い方をして、なんて心無い。
風にあたりにとか言ってたからテラスにでも行ったのかしら。なんだか心配だわ。
ねえ、かーたんゆあ。私のことはいいからちょっとテラスに行って様子を見てきて。
メレアーデにそう言われ、かーたんゆあはテラスへと向かった。
このお話の続きはここから見るッキュ!
エピソード26-7 5000年の旅路 遙かなる故郷へ Ver.4.0へ
こちらの文章は
ドラゴンクエストX(DQ10)ネタバレストーリーまとめ 様より
お借りさせていただきました。