テラスに剣士がいた。
ん?そなたは。そういえばお互いバタバタしていてまだ名乗ってすらいなかったな。
自分はファラスという。エテーネ王国軍の兵士でもなければ王宮に使える役人でもない。
ドミネウス陛下の弟君であるパドレ様ただ一人に忠誠を誓う一介の従者だ。
剣士は名前をファラスと名乗った。
ファラスと言えば、ヒストリカ博士と一緒に海洋都市リンジャハルの歴史を調べている際に手に入れた手記を書いた人物の名前だ。
あの手記を書いた人物が目の前にいるファラスだとすれば、手記に書かれていた主とはパドレ王弟ということになる。
パドレ王弟は記憶の結晶に想いを残していた。 かーたんゆあのことを自分の娘だと言い、この世界を愛し、強く生きろと言っていた。
ということは、マローネはかーたんゆあの母親、マローネが命がけで守った赤子の息子はかーたんゆあということになるが。
「5000年前の歴史 ファラスの手記」
ファラスがかーたんゆあのことを訪ねてきたので、名前を名乗った。
ファラスがニヤリとしながら意味ありげに頷く。
そうか・・・かーたんゆあというのか。
パドレ様は公務で海洋都市リンジャハルへ赴かれることとなり、自分もお供した。
だがリンジャハルでは想像を絶する大災害にみまわれ、パドレ様とは別れ別れに。
もちろん探した。瓦礫の中を、廃墟となった町を、くまなくな。
だが見つからなかった。報告のために久しぶりに戻ったところ、あの化け物が屋敷に紛れ込み・・・くそ!
自分がついていながら、マローネ様をお守り出来なかった。これではパドレ様にあわせる顔がない。
ファラスは懐から異形獣のツノを取り出す。
しかし空中に浮かぶ屋敷にあのような魔物が一体どうやって侵入したのか。
そこへメレアーデがやって来きた。
メレアーデ様!お父上の言いつけに背いて部屋から出られては。
メレアーデは澄まし顔だ。
ふふ、いいのよ、これくらい。誰かさんがあまりにも暗い顔をして出ていくものだから心配になったの。その、飛び降りるんじゃないかって。
ご冗談を。このファラス、そのような弱きな考えは思いついたこともありませんぞ。
メレアーデが声を出して笑いだした。そして、ファラスが持っている異形獣のツノを見る。
それ、なんなの?
ファラスが答える。
屋敷を襲った化け物のツノです。あの化け物はマローネ様の身体から生気のようなものを吸い取り、この中に収めたように見えました
メレアーデは異形獣のツノに赤い宝石が埋め込まれていることに気がつく。
化け物というか、魔法生物ではなくて?ほらここに宝石がついているでしょ。錬金術で生み出された生物には触媒に利用した宝石が身体のどこかにあるそうよ。
ファラスが異形獣のツノをじっくりと観察する。
ふむ、魔法生物ですか。かーたんゆあよ。そなたはどうだ?思い当たることがあるならなんでもいい。ぜひ意見を聞かせてくれ。
かーたんゆあはこれまでに何度か異形獣と呼ばれる魔物に遭遇したことを伝えた。
ほう、異形獣と名付けられた魔法生物か。もし異形獣が錬金術の産物であるなら、錬金術の研究機関である王立アルケミアに問い合わせるのが一番だな。
メレアーデが言う。
その王立アルケミアなんだけど、転送の門が復旧したのに、何故かあそこだけ行けないらしいのよ。
ファラスが思案する。
ふむ、では旧知の仲を頼りましょう。自分の友人が王都で錬金の店を開いてましてね。聞けば何かしら分かるかもしれません。
ではメレアーデ様。自分が戻るまでマローネ様の看病、よろしく頼みます。
ファラスはそう言うと、すぐに駆け出していった。 メレアーデがかーたんゆあに言う。
ねえ、かーたんゆあ。叔母様を救うため、ファラスに手を貸してあげて。記憶の赤結晶の内容を覚えてるでしょ?叔母様を救ってほしい。これが私からあなたへのお願いだったんだわ。
正直、いつあんな伝言を吹き込んだのか覚えがないのだけれど、きっとあれはこの時のためにあったのね。
私はお部屋に戻って叔母様の看病に最善を尽くすわ。あなたは王都に向かってファラスを追ってちょうだい。
主人公は王都キィンベルに向かうため転送の門へ向かった。
王都キィンベルに着くと、身軽な服装のメレアーデに声をかけられた。
こんにちは、かーたんゆあ。私の願いに応えて記憶の赤結晶を届けてくれてありがとう。
きっと今は自分が何をなしたのか気づいていないのでしょうね。
少し歩きましょうか。
あなたの一連の行いが、滅びの未来を回避するための最初の1歩となったのです。
運命という激流にあらがうことは難しい。未来を変えようとがむしゃらに行動しても結局同じ滅びの未来へ流されてしまう。
ですが、激流の中にあっても、別の流れに至る未来への分岐点は確かに存在するのです。大切なのは歩みを止めないこと。
今はもどかしいでしょうが、一歩一歩望んだ未来に向けて歩んで下さい。それが唯一の方法なのですから。
今日は頼みごとがあって来たのではありません。ただお礼を言いに来ただけ。
それにかーたんゆあは私が頼まなくてもマローネ叔母様を救うためファラスを手助けしてくれるのでしょう?
そしてキュルル。そこにいるのでしょう?今後もかーたんゆあのよき友として支えになってあげて下さいね。
キュルルがエテーネルキューブから姿を現す。
何故ボクを知っているキュ。お前は何者なんだキュル?
メレアーデはその質問には答えない。
願わくば、あなたたちの選ぶ道が正しき未来へとつながっていますことを。
そう言うとメレアーデは走り去り、曲がり角で姿を消した。
キュルルが追いかける。
見失ったキュル。あの女、只者ではないキュ。
顔はそっくりだけど、王宮にいたメレアーデと本当に同一人物なのキュル?
それよりかーたんゆあ。今は錬金術師の店に行ったファラスとかいう男を追うキュ。
かーたんゆあがゼフの店に行くと、ファラスがゼフと話をしていた。
かーたんゆあじゃないか。どうしてここに。
ゼフが驚く。カウンターには異形獣のツノがおいてある。
なんとまあ、二人は顔見知りでしたか。世間は狭いとはよく言ったものです。
それでかーたんゆあさんはどういったご用向きでいらっしゃったのです?
かーたんゆあはメレアーデからファラスを手助けして欲しいと頼まれたと伝えた。
メレアーデ様、お心遣い感謝します。 このファラス、必ずやマローネ様を救ってみせるとお約束いたします。
ゼフが言う。
そういうことでしたら、ぜひともかーたんゆあさんにも話の続きを聞いて頂きましょう。
私が研究員として王立アルケミアに所属していた時の話です。 このツノの持ち主である異形獣という魔法生物については目にしたこともありませんが。
しかし、この輝き、忘れもしません。当時研究室では、錬金術で生み出した宝石に人間の精神エネルギーを保存しておく実験が繰り返されていました。
精神エネルギーを溜め込んだ宝石が、ちょうどこのツノの宝石と同じ色の輝きを放っていたものです。
思案するファラス。
精神エネルギーを吸い取られたままだとどうなってしまうのだ?まさか・・・
それは私にもわかりかねますね。
その分野の研究は始まったばかりで、まだまだ未知の部分が多かったので。
とはいえ、私があそこをやめてからだいぶ経っていますからね。今なら解明が進んでいるかもしれません。
精神エネルギーに関する研究の詳細を知りたければ、当時の主任研究員、アルケミアの現所長に聞くのが一番でしょう。
結局王立アルケミアか。転送の門の不具合で行く手段がないからわざわざお前を訪ねて来たんだがな。
おっと、そうでしたね。
ではヨンゲ所長の家を訪ねてみては?運が良ければ会えるかもしれませんよ。
ファラスは異形獣のツノを持って、一人で駆け出していった。
ヨンゲ所長の家に行ってもファラスの姿がない。
机の上にあるヨンゲ所長宛ての手紙に目がとまる。
#バントリユ地方に出現したあれの噂は自由人の集落にまで届いている。
#ワシが抗議の辞任をして王立アルケミアを去った後もキサマはあの忌まわしい研究を続けていたのだな。
#おおかた所長の地位をくれてやるとでも言われ、研究を続行したのであろう。この俗物めが。
#悪いことは言わん。あれにまつわる資料をただちに破棄し、今後二度とあの研究には手を出すな。
#禁断の研究を続ける者は、いつか必ず手痛いしっぺ返しを食らうだろう。
#ワグミカより
ファラスがやって来た。
ここにいたか、かーたんゆあ。行き違いにならず、よかった。
ゼフの店で別れた後、自分は転送の門を使わずに王立アルケミアへ行く手段を探していたのだが、なんでも所長が住むこの家に、王立アルケミア直通の秘密の通路が隠されているらしいのだ。
だが今のところ、それらしきものは何処にも見当たらんな。
ところでかーたんゆあ、さっきからお前は何を手にしているんだ?
かーたんゆあはヨンゲ所長に宛てられた手紙をファラスに見せた。
うーむ、忌まわしい研究とは何か。気になるところだが、今はこの手紙の差出人について考えるとしよう。
内容から察するに、ワグミカなる差出人は、かつて王立アルケミアで所長を務めていた人物のようだな。
自分が調べたところによると、なんでも歴代の王立アルケミアの所長はいずれもこの家に住んでいたという話だ。
当然、先代所長のワグミカもここに住んでいたのだから、秘密の通路のありかを知っていると考えられる。
現役の所長に会えないなら、先代の所長から通路のありかを聞き出すのも一つの手だろうよ。
手紙によると、今、ワグミカが暮らしているのは自由人の集落らしいな。よし、早速訪れてみるとしよう。
ファラスは駆け出していった。
自由人の集落に着くと、ファラスの姿が見当たらない。
とりあえず、ワグミカと話をしてみる。
ワグミカは小さな女性で幼そうに見えるが、どうやら外見だけのようだ。
昼間から酔っ払っている。
横にはモモンタルという魔法生物がいて、ワグミカの世話をしているようだ。
人生はクソだ。生きるに値しない。
寝言を言っているようだ。ワグミカが目を覚ます。
ふにゃ?なんじゃ、お前さん。このワグミカに何の用じゃ?
かーたんゆあは王立アルケミアへの秘密の通路のありかを聞きたいと伝えた。
なんじゃ、お前もか。こうも立て続けに物好きが来るとはのう。
さっきもファラスとかいうオッサンが秘密の通路のありかを聞きに来おったぞい。
暑苦しい男じゃった。鬱陶しいんで、さっさと通路を開く方法を教えてお帰り願ったところじゃ。
よいか?屋敷の2階にあるタンスが秘密の通路の入り口になっておる。
そのタンスに暗証番号を打ち込めばあら不思議。王立アルケミアに一瞬で行ける便利な通路が開けるんだぞい。
暗証番号は7456じゃ。さあ満足したろう。帰った帰った。
かーたんゆあはヨンゲ所長の家に行き、タンスに暗証番号を入力した。
タンスの扉が開き、王立アルケミアへの道が開かれた。
ファラスがやって来る。
おお、暗証番号を入力したのか。まったくワグミカ殿にも困ったものだ。肝心の暗証番号を言い忘れるとは。
集落にとんぼ返りしたらしたで、とっくにかーたんゆあに教えたと言われるし、骨折り損のなんとやらだな。
だがお前がアルケミアに行く前に追いつけてよかった。ここからは自分も一緒に行かせてもらうぞ。
タンスの中を覗き込むファラス。
この向こうに見えるのが王立アルケミアなのか。なんとも奇っ怪な。このタンス、よもや魔物のたぐいではあるまいな。
入ってみないことには始まらんか。よし、自分が先に行ってみよう。
タンスの中に飛び込むファラス。
どうやら無事王立アルケミアに移動できたようだ。
かーたんゆあもタンスの中に飛び込んだ。
突然、ヨンゲ所長がかーたんゆあたちの前に走ってきた。何かから逃げているようだ。
「くそ!こんなところにも!」
ファラスが声をかける。
そなたがヨンゲ所長か?
「何だ、貴様らは!王国軍ではなさそうだな。さしては殺し屋か!?」
「おのれ、おのれ、国王め!そうまでして私を・・。」
何処かへ逃げ去っていくヨンゲ所長。
待ってくれ!そなた何か誤解しているぞ!
異形獣が現れ、ヨンゲ所長を追いかけている。
あの化け物、ここにも異形獣が。 追いかけるぞ、かーたんゆあ。きっとあの者がヨンゲ所長だ。死なれてしまっては元も子もない。なんとしても話を聞かねば。
何匹もの異形獣を倒しながらヨンゲ所長を追う。 王立アルケミアの地下室でようやくヨンゲ所長に追いついた。
「用済みとなれば全員口封じか。この薄汚い国王の犬め!」
落ち着いてくれ。そなた王立アルケミアの所長ヨンゲ殿だな?
ヨンゲ所長はなおも取り乱している。
「ぐ、やはり私の命が目当てか。そうやって汚れ仕事を続ければな、やがて貴様らも私と同じ運命をたどることになるんだぞ。わかっているのか?」
「今から手にかける相手の死に様こそ未来の自分たちの末路であると覚えておけ。」
待て待て、自分とかーたんゆあは国王陛下とは無関係だ。だから落ち着け、いいな?
危害を加える気などない。むしろ教えを請いたくて追ってきたのだ。なのに殺す道理はないだろ?な?
ヨンゲ所長が落ち着きを取り戻した。 ファラスが異形獣のツノを見せる。
これが分かるな?異形獣に精神エネルギーを吸われ、意識不明となった者を救いたい。自分たちはその手立てを知りたいだけだ。
ヨンゲ所長がなおも疑う。
「本当に、本当にドミネウスとはなんの関係もないのだな?」
ファラスが異形獣のツノをしまい、尋ねる。
なぜそこまで国王陛下を恐れる?何があったというのだ?
ヨンゲ所長が答える。
「人の精神エネルギーを吸収し、収集する異型の魔法生物、ヘルゲゴーグの錬金を指示したのが他ならぬ国王だからだ。」
「まとまった数のヘルゲゴーグを国王に引き渡したとたん、練金に携わった私たちを口封じのため・・・くそ!」
ファラスが驚く。
ヘルゲゴーグというのは異形獣のことをさしているのか。いくらなんでも一国の王がそのような非道な行いに出るとは。
にわかには信じられんな。それだけ聞いて信じろと言うにはあまりに事が大きすぎる。
ヨンゲ所長が言う。
「ここに来るまでに通ってきた研究棟でかすかに光が漏れている扉を見てきたはずだ。その扉の奥、先進研究区画にすべての証拠が揃っている。精神エネルギーに関する研究機器もな。」
ファラスが聞く。
「研究機器だと?そうだった。精神エネルギーを奪われた者の治療手段は?」
ヨンゲ所長が言う。
「治療?大げさな。ツノに蓄積された精神エネルギーを導力器を介して患者に戻すだけのことだ。」
「では治るのだな!?」
ヨンゲ所長がカギを差し出す。
「このカギで先進研究区画へ入れる。機密研究室まで私を護衛しろ。その後の身の安全も保証するなら・・・」
ヨンゲ所長がそこまで言った時、白い色をしたヘルゲゴーグが現れた。
「強化型ヘルゲゴーグ!?国王め、どうあっても私を葬り去るつもりか!」
強化型ヘルゲゴーグがヨンゲ所長を襲い、ヨンゲ所長は死んでしまった。
かーたんゆあが強化型ヘルゲゴーグを倒す。
ファラスがヨンゲ所長の亡骸の側にいる。
すまぬ、救えなかった。
かーたんゆあはヨンゲ所長が持っていた先進研究区画のカギを拾った。
たしか研究棟にそのカギで開けられる扉があるとヨンゲ殿は言っていたな。
よし、研究棟に引き返すぞ。
かーたんゆあとファラスは研究棟へ向かった。
研究棟にヨンゲ所長の時の指針書があったので読んで見る。
#国王陛下より精神エネルギーを収集する能力のある魔法生物を錬金を依頼される。
#さらに精神エネルギーより時渡りのチカラを抽出する装置を錬金せよとのこと。すべて陛下のご意向に沿うべし。
かーたんゆあはヨンゲ所長の国王への告発を裏付ける時の指針書の記述を発見した。
ファラスも時の指針書を読む。
たしかにヨンゲ殿の言っていたとおり、陛下御自ら異形獣を開発せよとの指示をなさっていたようだ。
たとえ何人であろうと指針書の内容は容易には改ざんできないはず。
となれば異形獣を使役し、マローネ様をあのような目にあわせたのもみな陛下の仕業ということに。
この事実も捨て置けんが、今の自分にとってもっとも大切なことはマローネ様をお救いすることだ。
ヨンゲ殿の指針書は、かーたんゆあ、お前が預かっておいてくれ。
ヨンゲ殿は導力器と呼んでいたな。それらしいものは・・・
ファラスが導力器を見つける。
これなのか?おお、精神エネルギーを物質にたくわえたり人体に戻したり出来るとこの本に書いてあるぞ。
名は精光導力器というのか。よし、希望が見えてきた。これならマローネ様をお救い出来るかもしれん。
精光導力器は自分が持っていく。マローネ様のもとへ一刻も早く戻ろう。
かーたんゆあとファラスは、マローネのもとへ向かった。 ファラスは精光導力器をマローネがいる部屋に運び込んだ。かーたんゆあも部屋に入ろうとした時、クオードがやって来て声をかけられた。
叔母様の治療のためにファラスと駆けずり回っているそうだな。その後進展はあったのか?
かーたんゆあはクオードに王立アルケミアへ行って治療器具を手に入れてきたことを話した。
転送の門を介さず・・そんな秘密の通路があったとはな。
王立アルケミアに行ったのなら、その、何か見つけてこなかったか?
陛下の、父の悪行を示すような証拠を。
かーたんゆあはヨンゲ所長の指針書をクオードに渡した。
クオードは指針書を真剣な眼差しで読んでいる。
そこへ部屋からメレアーデが顔を出した。
かーたんゆあ、今から叔母様の治療を始めるからあなたも付き添って。あら、クオードも来ていたのね。あなたもいらっしゃい、早く。
かーたんゆあは部屋に入っていったが、クオードはまだ部屋の外で指針書を読んでいる。
精光導力器の中に異形獣のツノを入れ、装置を作動させる。
ツノからマローネに精神エネルギーが戻され、マローネが目を開けた。
ああ、ファラス。
ファラスは片膝をついて申し訳なさそうに言う。
マローネ様、自分がついていながらお守り出来ず、面目次第もございません。
マローネは使用人が抱えている赤子を見ながら言う。
良いのです。この子さえ無事なら。
メレアーデに支えられながら身体を起こすマローネ。
メレアーデ、あなたもよく無事で。
心配なんていらなかったのに。私には頼もしい護衛がついていたのよ。かーたんゆあっていうね。
メレアーデがかーたんゆあのことをマローネに紹介する。 かーたんゆあの名前を聞いて、マローネは少し驚いている。
まあ・・かーたんゆあというの。ふふ・・・いいお名前・・・。
マローネは少し疲れてしまったようだ。 部屋を出ようとするかーたんゆあにファラスが近づいてくる。
かーたんゆあよ、本当に世話になったな。チカラになってくれたこと、まこと感謝の念に堪えぬ。
この恩義には必ず報いると約束しよう。まあ、気長に待っていてくれ。
それにしても遅いわね。クオードったら何をやってるのかしら。
メレアーデが部屋を出て指針書を読んでいるクオードの側に行く。
クオードの薄情者!どうして叔母様に顔を見せて差し上げなかったの?
その質問には答えず、クオードは指針書を差し出す。
姉さんもこれを読んでみてくれ。王立アルケミアの所長のものだ。
驚きの表情で指針書を読むメレアーデにクオードが言う。
許しがたい行為だ。こんな人間が国王だなんて。
お父様が異形獣を!?きっと何か訳があったのだわ。
動揺するメレアーデにクオードが言う。
叔母様にも同じことが言えるかい?どんな理由があればあんな化け物を錬金し、人にけしかけるのを正当化出来るんだ。
かーたんゆあ、お前も覚えてるよな?転送の門に仕掛けられた幻灯機を。
あれからどうしても気になって、王家に伝わる秘宝の目録を調べてみたら、あの幻灯機らしきものを見つけたんだ。
それで俺は、父が一連の事件に加担していると確信したのだが、まさか首謀者だったとは。
指針書を読むかぎり父は、大量の精神エネルギーを収集する目的で異形獣を使役していたようだな。
そして精神エネルギーから時渡りのチカラを抽出するための装置を開発させている。本命は時渡りのチカラということか。
話を立ち聞きしていたジェリナンという使用人が言う。
「こんなことがございました。ドミネウス様は弟君のパドレ様に比べ、時渡りのチカラの資質に劣っておりました。」
「それを理由に先代陛下はドミネウス様よりもパドレ様を可愛がられ、王位継承権の順位を入れ替えるとまでおっしゃったのです。」
「ドミネウス様の中では、即位された今でも時渡りのチカラを理由に継承順位を下げられそうになった経験がシコリとなり・・・」
クオードが話をさえぎる。
ああ、もういい。私情に流される身勝手な者に、大事な玉座を任せられるものか!
クオードはヨンゲ所長の指針書をもって何処かへ行ってしまった。
大丈夫かしら、あの子。何かとんでもない事をしでかそうとしているんじゃ。
メレアーデがかーたんゆあに言う。
お願い。クオードを追いかけて!私じゃいざという時に止められないから。
クオードを追いかけるかーたんゆあ。
クオードは王座の間に入っていった。
クオードと向き合うドミネウス王。
クオードよ。お前の言う火急の件とやら、時見の神殿にて未来を予見する余の責務を妨げるに値する用件なのであろうな?
クオードは決意を固める。
ドミネウス陛下。あなたを国民弾圧の罪で告発します。速やかにご退位ください!
ドミネウス王は余裕の表情だ。
ほう、余を王座から引きずりおろそうとするからには、無論、相応の確信があってのことなのであろうな。
わが国を騒がせた異形獣と呼ばれる魔物。あれはあなたの命により王立アルケミアで錬金された魔法生物だったのでしょう。
そればかりか完成後は口封じのため異形獣をけしかけ、錬金に携わった者たちすべてを闇にほうむろうとさえした。
今も王立アルケミアへ入れないのは、異形獣の襲撃を受けて、かの施設が壊滅しているからに他ならない。
ドミネウス王の側近であるワトス大臣が言う。
「妙ですな、転送の門が使えないのにいかようにして軍団長は王立アルケミアの現状を知り得たというのですか?」
クオードが答える。
ある者が転送の門を使わず王立アルケミアへ行く秘密の通路を発見し、ヨンゲ所長にお会いしたのです。
残念ながら所長は亡くなってしまわれたが、彼の指針書を持ち帰ることに成功しました。この中に次のような記述があります。
指針書を開きドミネウス王に見せる。
「国王陛下より精神エネルギーを収集する能力のある魔法生物の錬金を依頼される。」
「さらに精神エネルギーより時渡りのチカラを抽出する装置を錬金せよとのこと。すべて陛下のご意向に沿うべし。」
クオードが指針書を閉じて言う。
異形獣にまつわる騒動の数々。裏で糸を引いていたのはあなただったのですね、陛下。
事実無根であるとおっしゃるなら、今この場にてご説明を!
ドミネウス王の表情は変わらない。
身の潔白を証明せよ、そう言いたいのだな?クオード。
だがその前に、ヨンゲ所長の指針書を持ち帰ったある者とは誰だ?答えよ。
クオードが答える。
かーたんゆあという者です。我がエテーネの臣民ではありませんが、転送の門の復旧にも功ある信の置ける者です。
ドミネウス王が言う。
信頼を得てふところに入り込み、ニセの証拠で揺さぶりをかける、よくある陰謀だ。
得体の知れぬ異国人が持ち込んだ証拠など信用に値せんわ!その指針書が本物であるとお前は証明できるのか?
余は証明できるぞ。その指針書が偽りの物であるとな。
ドミネウス王が自らの指針書を開いてクオードに見せる。
お前の指摘した箇所と同じ日付だ。余の指針書のどこにも異形獣の錬金を依頼せよ、などとは書かれておらん。
この矛盾、諸君らはどうとらえるか?
どちらかの指針書が偽物だとしよう。それは余の所持する物か?もしくはそこの異国人がクオードに渡した物か ?
がっくりとうなだれるクオードの肩に手をのせるドミネウス王。
クオードよ。余はお前を咎めはしない。国を想う気持ち、痛いほど伝わってきた。
このような暴挙に出てしまったのもニセの証拠をつかまされ、疑心暗鬼の落とし穴にはまってしまったからであろう?
ドミネウス王がかーたんゆあに持っている杖を振りかざす。
真に罪があるとすれば、貴様である!衛兵、この者を捕らえよ!
罪状は内乱の扇動、及び我が国で最も罪深い指針書の偽造である。
衛兵がかーたんゆあを捕らえようとする。 クオードがなおも食い下がる。
お待ち下さい、陛下!その者に罪はございません!
ドミネウス王が一括する。
哀れなり、我が息子よ。まんまと欺かれ、恥辱にまみれてもなお、罪人に情けをかけようとするか。
かーたんゆあをは捕らえられて、地下牢に入れられてしまった。
このお話の続きはここから見るッキュ!
エピソード26-8 5000年の旅路 遙かなる故郷へ Ver.4.0へ
こちらの文章は
ドラゴンクエストX(DQ10)ネタバレストーリーまとめ 様より
お借りさせていただきました。